vol.41 土と火が紡いだ円筒の記憶 - 貴婦人たちの指先を満たした、マグカップという名の揺るぎなき様式美 -
【Salon de lily Column Vol.41】
時を湛える円筒の器
- 人類最古の温もりと、貴婦人たちが愛したカップの系譜 -
朝の光が雨上がりの窓辺を濡らし、静謐な空気が心地よく室内に満ちてゆく七月の始まり。皆様、いかがお過ごしでしょうか。私たちが日常のなかで最も無意識に、そして親密に触れている器である「マグカップ」。温かい飲み物をたっぷりと湛え、両手で包み込むその瞬間に、ふと「この器はいつ頃から私たちの傍らにあるのだろう」と、遠い時間に思いを馳せることはありませんでしょうか。取っ手のついた円筒形の器というその原型を遡ると、実は驚くほど気の遠くなるような、人類の記憶の深層へと行き当たることになります。
マグカップの起源は、今から約一万年前の新石器時代にまで遡ると言われています。当時は粘土を捏ねて焼かれた土器、あるいは動物の骨や木をくり抜いたものがその原型でした。その後、金属器時代にはブロンズや銀のカップが登場しますが、熱い飲み物を注ぐと器自体が熱くなってしまうという致命的な課題を抱えていました。その不便さを劇的に変えたのが、まさに「土と火の芸術」である陶磁器の発展です。特に、18世紀のヨーロッパにおいて東洋の神秘的な白磁が「白い黄金」として王侯貴族を魅了し、名だたる歴史ある名窯が次々と誕生した時代、器の歴史は芸術的な頂点を迎えます。
当時のヨーロッパでは、東洋への強烈な憧れから生まれた「シノワズリ(中国趣味)」が大流行していました。それまでお茶や高価なチョコレートを飲む文化がなかった貴婦人たちは、名窯が競って作り出す美しい磁器のカップにうっとり見惚れ、サロンでの社交の主役に据えたのです。ただし、当時のヨーロッパのトレンドは、現代のマグカップのようなカジュアルな形ではなく、ソーサーが付いた優美なティーカップや、細身のチョコレート・カップが主流でした。ハンドル(取っ手)がしっかりと付き、日常に寄り添う厚みと機能性を備えた現代的な「マグ」の形が洗練されていくのは、後の産業革命を経て、万人が豊かな寛ぎの時間を手に入れるようになってからのことです。
ポーセリンアートにおいてマグカップというキャンバスは、その直線の潔さゆえに、描く者の知性とセンスを最も純粋に映し出す鏡となります。歴史ある伝統的なこだわりを再現するも良し、あるいは現代的な色彩を乗せてモダンに仕立てるも良し。皆様の手で施される一筋の金彩や転写紙の意匠が、何世紀もの時を超えて洗練されてきた器の歴史に、新たな呼吸を吹き込みます。今回は、手元にあるだけで心を満たし、皆様の日常を特別に調律してくれる、洗練されたマグカップの白磁たちをご紹介いたします。
今日の「サロンドリリー」のご紹介
大き目カラーマグカップ 大容量400ml

カラーマグカップ
